2014/09/12 (Fri) 10:30:52 Catil. 1.17 - 兎狐

第17節に入ります。

第1演説は 33 節、Maslowsky のテキスト (トイプナー)で 394 行を数えます。第 17 節は 193 行目始まりなので丁度半分くらいまできました。年明けのまだ寒い時期から8カ月ほどかけて読んでまいりましたが、後半戦も宜しくお願いします。

内容は、引き続きカティリーナにローマを出て行くよう説得(?)が続けられます。


(1) 810874さん — 10/14
servi mehercule mei si me isto pacto metuerent ut te metuunt omnes cives tui, domum meam relinquendam putarem: tu tibi urbem non arbitraris?

(2) 兎狐 — 10/7
et si me meis civibus iniuria suspectum tam graviter atque offensum viderem, carere me aspectu civium quam infestis omnium oculis conspici mallem:

(3) fnkmさん — 10/9
tu, cum conscientia scelerum tuorum agnoscas odium omnium iustum et iam diu tibi debitum, dubitas quorum mentis sensusque volneras, eorum aspectum praesentiamque vitare?

(4) 兎狐 — 10/27
si te parentes timerent atque odissent tui neque eos ratione ulla placare posses, ut opinor, ab eorum oculis aliquo concederes.

(5) 810874さん — 10/29
nunc te patria, quae communis est parens omnium nostrum, odit ac metuit et iam diu nihil te iudicat nisi de parricidio suo cogitare:

(6) 兎狐
huius tu neque auctoritatem verebere nec iudicium sequere nec vim pertimesces?


___
[17] text (perseus) http://goo.gl/hauJmm

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2014/10/13 (Mon) 16:50:24 Re: Catil. 1.17 (2) - 兎狐

すみません、遅くなりましたが、担当分です。

(2)
et sī mē meīs cīvibus iniūriā suspectum tam graviter atque offensum vidērem, carēre mē aspectū cīvium quam īnfestīs omnium oculīs cōnspicī māllem:

「また仮に私が、わが市民に不当にも、それほどまでに厳しく疑念の目を向けられ、感情を損なったのであれば、皆の敵意ある目で見つめられるよりも、むしろ市民の視界から逃れる方を選ぶだろう。」

et : (1) と同じ展開が繰り返される. / sī : 現在における非現実の仮定なので、動詞は protasis (viderem), apodosis (mallem) ともに接続法未完了過去におかれる。 / mē : 対格主語. / meīs cīvibus : 所有形容詞はキケローが執政官であるためのもの。行為者の与格. / iniūriā : OLD iniūria 3b — 3 (abl sg. as adv.) : b without just cause, unjustifiably. 「不当にも」 / suspectum : (sc. ~ esse) suspicere {pf. inf. pass.}. vidēre がとる AcI 構文における不定詞. 「疑念を抱く」 (OLD s.v. suspiciō 3). 疑わしい目(上目)で見る、の意。/ tam : (adv.)「それほどまでに」。すなわち、カティリーナに対してなされている程に、ということ。 / graviter : OLD graviter 7 — 7 Sternly, severely, harshly. suspectum にかかる. / atque : suspectum と offensum を繋ぐ. / offensum : (sc. esse) offendere {pf. inf. pass.} (受動)「感情を害する」(OLD s.v. offendō 7b) / vidērem : vidēre {impf. subj. act. 1sg.} 「認識する」 / carēre : {pres. inf. act.} māllem がとる AcI 構文における不定詞. / mē : 対格主語 / aspectū cīvium : 「市民の視界から」 (OLD s.v. aspectus 3). 分離の奪格. / quam : "mālle A quam B" で「BよりむしろAを選ぶ」 / īnfestīs omnium oculīs : 「皆の敵意ある目によって」. 手段の奪格. / cōnspicī : cōnspicere {pres. inf. pass.} 「見つめる」 (OLD s.v. conspicio 4) / māllem : mālle {impf. subj. 1sg.}

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2014/10/15 (Wed) 00:20:39 Re: Catil. 1.17 (1) - 810874

遅くなってしまってすみません。(1) を提出いたします。

servī mehercule meī sī mē itsō pactō metuerent ut tē metuunt omnēs cīvēs tuī, domum meam relinquendam putārem: tū tibi urbem nōn arbitrāris?
「ヘルクレースにかけて,もし私の奴隷たちが私を恐れているなら(ちょうどおまえのすべての市民たちがおまえを恐れているように)私は自分の家を打ち捨てるべきだと考えるだろう。おまえは,この街が自分によって打ち捨てられるべきだと思わないだろうか?」

sī: 現在の非現実を表す条件文を作る。metuerent と putārem は接続法未完了過去。
itsō pactō: ut 以下を先取りしている。
ut: 比較の ut で,metuunt は直説法現在。
omnēs cīvēs tuī:「おまえの街(=ローマ)のすべての市民」という意味か?
relinquendam: 仮に「打ち捨てる」としたが「(家を/ローマを)去る」という意味。
tū tibi urbem nōn arbitrāris?: まず,文の形から relinquendam を補って,tū tibi urbem [relinquendam] nōn arbitrāris? とする。すると,tibi は動形容詞に伴う行為者の与格とわかる。さらに,arbitrāris は接続法完了の二人称(arbitrāveris の -v- が落ちて,母音が融合した形)なので,可能性を表す(?)。

後半(tu 以下)の解釈に骨が折れました。

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2014/10/17 (Fri) 13:28:53 Re: Catil. 1.17 (1) - 兎狐

810874さん

ありがとうございます。

前回の箇所では「ところで、今のお前の生活といえばどんなだ」と問われ、「お前は元老院にやってきた」と言われました。そして、カティリーナが入ってきて席に着いたところ、議員たちは(恐れて)その周囲の席を空けてカティリーナから距離をとったことが語られます。そのことを受けて、以下に続きます。

> servī mehercule meī sī mē itsō pactō metuerent ut tē metuunt omnēs cīvēs tuī, domum meam relinquendam putārem: tū tibi urbem nōn arbitrāris?

完璧です。

> 「ヘルクレースにかけて,もし私の奴隷たちが私を恐れているなら(ちょうどおまえのすべての市民たちがおまえを恐れているように)私は自分の家を打ち捨てるべきだと考えるだろう。おまえは,この街が自分によって打ち捨てられるべきだと思わないだろうか?」

構文については私も同じように解釈しますので、何点かだけ確認させて頂ければと思います。

___

【 mehercule 】
言わずと知れた最強の英雄神 Ἡρακλῆς (ヘーラクレース) ですね [< Ἥρα (女神ヘーラー) + κλέος (栄光の)].
Herculēs は誓いを立てる対象なので、お訳しの通りになろうかと思います。
mehercule の方が圧倒的に多いものの、同義的な表現として "me dius fidius" という古めかしい表現もキケローでは41例確認されます (Fowler, p.138)。

— Fowler, W. W., 1908,The Roman Festivals of the Period of the Republic.


【 omnēs cīvēs tuī 】
ここは cives を「(ローマ)市民ら」とすると、tui の所有は何を表すのかが問題になります。つづく (2) で meis civibus とありますが、ここの所有はキケローが行政の長たる執政官であることを踏まえて「ローマの全市民」として読めますが、ここでカティリーナがどのような位置にあるのかを考えると、 この cives は「ローマ市民」というより、「カティリーナにつき従う(堕落した)者ども」=「同胞」(fellow-citizen)というように限定されるのではないかと思います。


【 domum meam relinquendam 】
お訳しのようになろうかと思います。
動形容詞 (gerundivum) の人称的表現で、esse を補って読みます。
「わが家が残されるべき(である)」→「わが家を後にすべき(である)」


【 arbitrāris 】
arbitrārī (deponent) の直接法現在(2人称単数)なので、直前のように非現実の仮定ではなく、ここでは事実からの帰結としてこのように言われているのだろうと思います。
 「(お前の場合は実際そうなのだから、)お前は街を(後にすべきだと)思わないか?」

> 後半(tu 以下)の解釈に骨が折れました。
tu 以下については、直前にコロンが置かれていることから省略の可能性が大きくなりますが、それもきちんと読みとられてますし、tibi もちゃんと理解されていて、ほとんど言う事なしです。Bravo! です。


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2014/10/19 (Sun) 22:07:36 Re: Catil. 1.17 (1) - 810874

兎狐さん

コメントありがとうございます。

omnēs cīvēs tuī
なるほど,いま元老院でカティリーナから距離をとって座っている議員たちの中にいるはずの「おまえのの仲間たち」というふうに読むのですね。納得です。

arbitrāris
arbitrō の接続法完了だと考えていましたが,デポネントの arbitror の直説法現在だと考えるべきでした。これも納得です。

> 直前にコロンが置かれていることから省略の可能性が大きくなります
ラテン語では一般的にそのような傾向があるのでしょうか? だとすると,近代語,たとえば現代英語のパンクチュエーションとは,すこし感覚が違うのですね。

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2014/10/21 (Tue) 11:49:38 Re: Catil. 1.17 (1) - 兎狐

810874さん

ego と tu が対比させられているので英語ではセミコロンが用いられるところかと思うのですが、この Clark の校訂ではコロンが用いられてますね。確認したところ、Teubner の Maslowsky のテキストでもコロンが用いられています。ただ、Cambridge の Dyck の校訂ではセミコロンが使用されていました。省略に関しては著作家によってそれぞれ特徴があるのだろうとは思うのですが、キケローは割とこの種の省略を好むように思います。何か狙いがないかぎり、キケローはとにかく同じ語句の繰り返しを避ける傾向があり、このように省略するか、別の表現を用いることが多いです。

> cives tui
すみません、ここ読み違えていたかもしれません。1.7 (1) audāciae satellitem atque administrum tuae における [satelles, administer], 1.8 (5) amentiae scelerisque socios における [socius] などの言い換えとして捉えていましたが、カティリーナを恐れているのは「同郷の市民」で、だからローマから出てゆくべきだと言われていると解釈するのが正しかったと思います。


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2014/11/06 (Thu) 10:12:50 Re: Catil. 1.17 (4) - 兎狐

おはようございます。

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。朝晩が冷えるようになってきましたね。私は最近なんとも忙しなくてまともにカティリーナの相手をすることができませんでした。たぶんもう少ししたら落ち着く方向に向かってゆくだろうと勝手に思ってますので、また習慣をとりもどしてゆければと思っております。皆さまにおかれましても、お体ご自愛いただきますよう。

Abeunt studia in mores 「熱意は習慣に変わる」
 出典) http://www.kitashirakawa.jp/taro/?p=400

そんなわけでかなり遅くなってしまいましたが、担当分です。


(4) sī tē parentēs timērent atque ōdissent tuī neque eōs ratiōne ūlla plācāre possēs, ut opīnor, ab eōrum oculīs aliquō concēderēs.

「たとえばお前の両親がお前のことを恐れ憎んでおり、しかもどうしても彼らを宥められないとしたならば、思うに、お前は彼らの視界から消えてどこかへ引き下がることだろう。」

sī : 現在における非現実の仮定が導入されるので、動詞は前件 protasis (timērent, ōdissent, possēs), 後件 apodosis (concēderēs) ともに接続法未完了過去におかれる(ōdisse は過去完了でこれを表す). / tē : timēre の対格目的語 / parentēs : timēre の主語. 複数で「両親」. / timērent : timēre {impf. subj. act. 3pl.} 「恐れる」 / ōdissent : ōdisse {plpf. subj. act. 3pl.} 「憎む」 / tuī : tuus {masc. pl. nom. = parentēs}, hyperbaton. / neque : 「そして、~ない(のであれば)」 / eōs : is ea id {masc. pl. acc. = parentēs}, plācāre の対格目的語. / ratiōne : 「手段」 / ūllā : (否定文中で)「何らかの」 / plācāre : {pres. inf. act.} 「なだめる」/ possēs : posse {subj. impf. 2sg.} / ut : 挿入句を導入. / opīnor : opīnārī {pres. ind. dep., 1sg.}. "ut opīnor" は「私の考えでは」という成句的表現. / ab : concēdere にかかる. 「(~から)引き下がる」 / eōrum : is ea id {masc. pl. gen. = parentium} / oculīs : (m.) {pl. abl.} / aliquō : (adv.)「何処かへ」/ concēderēs : concēdere {impf. subj. act. 2sg.}

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2015/01/14 (Wed) 14:06:50 Re: Catil. 1.17 (5) - 兎狐

810874さんの担当分を代投します。

(5)
nunc tē patria, quae commūnis est parēns omnium nostrum, ōdit ac metuit et iam diū nihil tē iūdicat nisi dē parricīdiō suō cōgitāre:

「祖国は我々皆に共通の親である。その祖国が現に今お前を憎み恐れながらも、親殺しを企むことを除いては何に関してもこれまでお前に裁きを下してこなかった。」

nunc : (adv.) 仮定が重ねられてきて "nunc" と来ている。以下の事は仮の話ではない、「実際」という意味を読みとる。 / tē : ōdit ac metuit の対格目的語. / patria : 「祖国」. ōdit ac metuit の主語. / quae : (rel. pron.) {fem. sg. nom. = patria} / commūnis : (adj.) {fem. sg. nom.} 「公共の、共有の、共通の(祖国)」 / parēns : {(fem.) sg. nom.}, 「親」. / omnium nostrum : omnis noster (m.) {pl. gen.}. この noster (pl.) はローマ市民を指す (OLD s.v. 7). / ōdit : ōdisse {pf. ind. act., 3sg. = quae} / metuit : metuere {pf. ind. act., 3sg.} / iam diū : 「これまで」 / nihil : iudicat の対格目的語. / tē : iudicat の対格目的語. / iūdicat : 「裁く」. iūdicāre {pres. ind. act., 3sg. = nihil.} / nisi : (conj.) 否定辞とともに、排除を示す。「~を除いては(何も~ない)」 / dē : cōgitāre にかかる. 「~について(思案する)」parricīdiō : parricīdium [cf. pater, caedis], (n.) {sg. abl.} 「親殺し、反逆」. / suō : (poss. adj.) {3sg.} {neut. sg. abl. = parricīdiō}. parricidium のpater にかかるものか. / cōgitāre : {pres. inf. act.}. "(nihil . . ) nisi . . cogitare" で「思案することを除いては(何も~ない)」と読む。それだけ祖国は寛容である、という含みを読みとる。前妻の殺害や要人暗殺など、これまで述べられてきたカティリーナの諸々の悪事が思い浮かべられる。

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2015/01/14 (Wed) 14:28:19 Re: Catil. 1.17 (6) - 兎狐

(6)
huius tū neque auctōritātem verēbere nec iūdicium sequēre nec vim pertimēscēs?

「貴様、その権威を恐れ、その決定に従うつもりはないのか。その威力に畏怖することはないのか。」

huius : (demonstr. pron.) patria を受けて auctoritatem と iudicium と vim にかかる。{fem sg. gen.} / tu : 以下の3動詞の主語. / neque : 否定の等位接続詞. = nec / auctoritatem : auctōritās (f.) {sg. acc.} 「権威」。当時、親は子に対して実際的に大きな威厳をもつ存在であった。 / verēbere : = verēberis. verērī {ind. fut. dep., 2sg.} 「恐れる」 / iudicium : (n.) {sg. acc.} 「判決」。ここでは「(親の)決定、意見」。/ sequēre : = sequēris. sequī {ind. fut. dep. 2sg.} 「従う」 / vim : vīs (f.) {sg. acc.} 「力」。ここでは「威力」と解する. / pertimēscēs : pertimēscere {inf. fut. act. 2sg.} 「恐れる」

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