2014/07/11 (Fri) 11:38:23 Catil. 1.14 - 兎狐

第14節に入ります。


(1) gtlttnさん — 7/17
quid vero? nuper cum morte superioris uxoris novis nuptiis locum vacuefecisses, nonne etiam alio incredibili scelere hoc scelus cumulavisti?

(2) nolimbreさん — 7/24
quod ego praetermitto et facile patior sileri, ne in hac civitate tanti facinoris immanitas aut exstitisse aut non vindicata esse videatur.

(3) 810874さん — 8/15
praetermitto ruinas fortunarum tuarum quas omnis proximis Idibus tibi impendere senties:

(4) gtlttnさん — 8/15
ad illa venio quae non ad privatam ignominiam vitiorum tuorum, non ad domesticam tuam difficultatem ac turpitudinem, sed ad summam rem publicam atque ad omnium nostrum vitam salutemque pertinent.


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[14] text (perseus) http://goo.gl/YkaF2l

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2014/07/18 (Fri) 21:20:41 Re: Catil. 1.14 (1) - gtlttn

すみません、〆切を過ぎてしまいました。今回はどうも内容があまり理解できなかったのですが、いちおう訳したので提出します。添削よろしくお願いします。

【読み方】quid vērō? nūper cum morte superiōris uxōris novīs nuptiīs locum vacuēfēcissēs, nōnne etiam aliō incrēdibilī scelere hoc scelus cumulāvistī?

【文法解釈】quid vērō: vērō は副詞ととる(「どうして私は真実を語るのか?」ではなく「本当にどうして?」[cf. McCalrdy: Completely Parsed Cicero, 107])。nūper:「少し前に」。morte superiōris uxōris:「前妻の(superiōris uxōris [f. sg. gen.])殺害を通じて(morte [f. sg. abl.])」(ここで mors は「死」というよりも「殺害」の意[cf. Ibid.])。novīs nuptiīs:「新たな婚礼のために」(nuptiīs < nuptae, f. pl. dat.)。locum:「場所を」(m. sg. acc.)。cum [...] vacuēfēcissēs:「お前が空けていたとき」(vacuēfēcissēs < vacuēfaciō, subj. plup. act. 2nd pl.)。なおこの cum は過去の 1 回かぎりの行為を表す cum で、動詞は未完了過去か過去完了の場合、直説法でなく接続法に置かれる(主節の動詞 cumulāvistī は完了形のため、cum 節は主節よりも相対的に前に起こった出来事だという点に注意)。nōnne: 肯定的な返事を予期していることを示す副詞(「…ではないのか?」)。etiam aliō incrēdibilī scelere:「さらにまた別の信じがたい悪行によって」(n. sg. abl.)。hoc scelus:「この悪行〔前妻の殺害〕を」(n. sg. acc.)。 cumulāvistī:「お前は増した / 積み重ねた」(cumulāvistī < cumulō, ind. perf. act. 2nd sg.)。

【訳】しかしまたどうして。先日、お前は前妻の殺害を通じて新たな婚礼のための場所を空けたが(?)、その後さらにまた別の信じがたい悪行によってこの悪行を増したのではないか?〔妻の殺害以外にも、さらに別の信じがたい悪行を犯しているのではないか?〕

【疑問点】1) 冒頭の quid vērō は後続の内容に対して、その疑問があまりに大きいために、問いのほうが先に口をついて出てきてしまったような言い方?つまり「前妻の殺害だけでは飽き足らず、いったいどうしてお前はさらに別の信じがたい悪行まで犯してしまったのだ!」ということ? 2) 「新しい婚礼のために場所を空ける」とは?

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2014/07/23 (Wed) 20:56:54 Re: Catil. 1.14 (2) - nolimbre

担当分を提出します.よろしくお願いします.

quod ego praetermittō et facile patior silērī, nē in hāc cīvitāte tantī facinoris immānitās aut exstitisse aut nōn vindicāta esse videātur.


それは,行為全体の残虐性がこの市民の外にあるとか,無罪であるとか思われないよう,私が見過ごし,甘んじて黙っていたからだ.

【単語】
facile patior:
  (慣用句的に)甘受する,黙認する
silērī:
  pres. inf. pass. < sileō ここでは自動詞的に「黙る」
facinoris:
  sg. gen. < facinus, facinoris, n. 行動,実績
immānitās:
  sg. nom. < immānitās, -ātis, f. 巨大さ,凶悪さ,極悪非道
exititisse:
  perf. inf. act. < ex + stitō, -ere, stitī, status. 追い出す(外に置く)
vindicāta:
   < vindicō, -āre, -āvī, -ātus. 法的に主張する

【補足】
疑問文のあとなので quod は理由を導入する役割だと判断しました.
nē ... videātur は nē + 接続法で目的を表すものです.
nē 以下の文は tantī facinoris immānitās が主語,videātur が述語,
aut ... aut ... (... はいずれも完了の不定形)は videãtur の説明.

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2014/07/31 (Thu) 18:53:55 Re: Catil. 1.14 (1) - 兎狐

gtlttnさん

ありがとうございます。長らくお待たせしてしまって済みませんでした。
では、頂いた疑問点と解釈についてリプさせていただきます。

> 【読み方】quid vērō? nūper cum morte superiōris uxōris novīs nuptiīs locum vacuēfēcissēs, nōnne etiam aliō incrēdibilī scelere hoc scelus cumulāvistī?

> 【訳】しかしまたどうして。先日、お前は前妻の殺害を通じて新たな婚礼のための場所を空けたが(?)、その後さらにまた別の信じがたい悪行によってこの悪行を増したのではないか?〔妻の殺害以外にも、さらに別の信じがたい悪行を犯しているのではないか?〕


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【 quid vērō? 】
Catil. 1.8 (1) でも出てきましたが、この quid? はスペイン語の疑問文 ¿ . . ? における最初の逆疑問符に相当するもので、疑問文を導入する標のようなものです。その使用例はキケローだけでも 500例超あります。vero は「さらに」でないかと思います。ここまで疑問が何重にも重ねられてきましたが、ここで接続詞 vero は climax を表現しているように思います。つまり、これが最後の質問になる、という聞き手へのサインのようなものかと思います (Kroon, p.313)。

-- Bibliography --
  Kroon, C., (1995), "Discourse particles in Latin - A study of NAM, ENIM, AUTEM, VERO, and AT" (Amsterdam studies in classical philology 4), Amsterdam.


【 nūper cum . . 】
お書きの通り nuper は最近のことで、cum はその時の説明のような感じですね。
 「ついこの間、お前が . . した時」


【 (cum) morte superiōris uxōris novīs nuptiīs locum vacuēfēcissēs】
novis nuptiis を locum にかけて読まれているようですが、この与格は locum vacuefacere の目的として捉えるとどうでしょうか。 
 「再婚のために場所を空ける」
この再婚は Aurelia Orestilla との結婚のことと言われます (Sal.Catil.15).
locum ですが、一夫一妻制ということを鑑みて locum (uxoris) という風に読めるのではないかと思います。
 「(前妻の殺害によって、妻の)座を空ける」


【 aliō incrēdibilī scelere hoc scelus cumulāvistī? 】
 「他の信じ難い犯罪によって、お前はこの罪科を増大させなかったか」
cumulare はお訳しのとおりここでは「(積み重ねることによって)増やす」という意味になりますね (OLD cumulo 5).
この「信じ難い犯罪」とは、サッルスティウスによると、前妻との間の子の殺害です (Sal.Catil.15)。

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2014/08/02 (Sat) 03:41:27 Re: Catil. 1.14 (2) - 兎狐

nolimbreさん

ありがとうございます。遅くなってしまいましたが、またコメントを挟ませてください。

> quod ego praetermittō et facile patior silērī, nē in hāc cīvitāte tantī facinoris immānitās aut exstitisse aut nōn vindicāta esse videātur.

> それは,行為全体の残虐性がこの市民の外にあるとか,無罪であるとか思われないよう,私が見過ごし,甘んじて黙っていたからだ.

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【 quod ego praetermittō 】
quod は関係代名詞の中性対格 (= aliud incredibile scelus) で praetermitto 「省く」の対格目的語として読みます。この関係代名詞は従属文を導入しない relative as a connnection (Woodcock, §230 (6)) です。なので、quod = sed ea として読めようかと思います。
 「だが、私はそのことに言及しないでおく。」
と言いつつ、言及するのがキケローです (praeteritio, cf. Catil. 1.3 (2) nam illa nimis antiqua praetereo, quod . . )


【 et facile patior silērī (ne . . ) 】
動詞 silēre はお書きの通り自動詞として「黙っておく」で、受動態は非人称受動態 (impersonal passive, Woodcock §60) です。
facile patior も仰る通り慣用句的に用いられて「~するに甘んじる」というようにも訳せますね (OLD patior 4c)。ただ、facile を「苦もなく、喜んで、安々と」のように訳出するのも可ではないかと思います。というのも、この副詞を訳出して沈黙に甘んじることの辛さを強調すると、ここの感じがよく出るのではないかと思います。
 「(そのためであれば)難なく耐えて沈黙する。」


【 nē . . (nominative and Infinitive) . . videātur 】
お書きの通り、否定の目的を表します。
 「(NcI) と思われないために」
ちなみに、videatur は単数ですが、このような 「思われる、見なされる」における3人称の数 (videtur / videntur, &c.) の決定については、不定詞句の主語の数によるものと私は捉えています(説明の仕方が不適切かもしれませんが)。なので、ここは不定詞の主語 immanitas が単数なので videantur ではなく videatur である、ということになります。


【 in hāc cīvitāte tantī facinoris immānitās aut exstitisse aut nōn vindicāta esse 】
・facinus -oris (n.) はお書きのとおり「行為」の意味ですが、そこから「犯罪、悪行」の意味が出てきたようです。tantus はその facinus の程度の大きさを言うもので、全体を言う場合は totus が用いられようかと思います。この属格の用法は特殊です。直訳すると「これほどの悪行の残虐性」となりますが、おそらく意味としては「これほどに残虐な悪行」ということです。
・exstitisse は exstare あるいは exsistere の完了不定詞で、これらの動詞の完了は区別されません。意味は「現れる、出現する」ととるのが良いかと思います。
・vindicata esse は受動態の完了不定詞と言っておきますが、この意味は「罰する」かと思います (OLD s.v. vindico 5)。


私訳
「だが、このことは置いておく。私は、この国ではこれほどの残虐な悪行が出来するとか、それが罰せられもしないとか、斯様に思われないためであれば、苦もなく耐えて沈黙する。」


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2014/08/05 (Tue) 18:05:34 Re: Catil. 1.14 - nolimbre

ありがとうございます!
quod = sed ea と思って読めば文脈も腑に落ちました.
facinus も,前妻とその子の殺害を指しているわけですね.
(tantus と totus についてもよく分かりました)

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2014/08/25 (Mon) 17:49:55 Re: Catil. 1.14 - 兎狐

のらんぶるさん

ありがとうございます。
そうですね、facinus は子の殺害に加えて、妻の殺害もそこでは考えられているかもですね。
また、キケローはこの種の関係詞の用法を多用するので、文頭に関係詞が置かれていれば、この可能性を考えてみられると良いかもしれません。

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2014/08/30 (Sat) 21:17:32 Re: Catil. 1.14 (3) - 810874

締め切りを失念していて,大幅に遅れてしまいました。申し訳ありません。

praetermittō ruīnās fortūnārum tuārum quās omnis proximīs Īdibus tibi impendēre sentiēs:
「私はお前の破産を見逃すが,それらはすべて,お前が次の中日に自分の前に立ちはだかると知るであろうものなのだ。」

ruīnās fortūnārum tuārum: 「お前の財産の破滅(→お前の破産)」。カティリーナが負債を抱えていたということが 1.13 (6) nota domesticae turpitūdinis なのか?
quās omnis: omnis が意味的にどうつながるのかよくわからない。
proximīs Īdibus: 「もっとも近い中日」。Īdūs は,三月・五月・七月・十月の十五日,それ以外の月の十三日を指す(The Bantam New College Latin & English Dictionary)とのことなので,11月13日のこと。[中日(なかび)という訳語は,岩波文庫『キケロー弁論集』の訳注から借りてきました。]

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2014/09/01 (Mon) 07:44:48 Re: Catil. 1.14 (3) - 兎狐

810874さん

ありがとうございます。ここ、色々厄介に思いましたが、よく読まれていて感心いたします。おかげで私自身の理解も深められました。


> praetermittō ruīnās fortūnārum tuārum quās omnis proximīs Īdibus tibi impendēre sentiēs:

omnis > omnīs (fem. pl. acc.)

>「私はお前の破産を見逃すが,それらはすべて,お前が次の中日に自分の前に立ちはだかると知るであろうものなのだ。」


ではまた少しコメントをさせて頂こうと思います。
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【 praetermittō ruīnās fortūnārum tuārum 】
praetermittere は omittere や praeteire などと同じく PRAETERITIO (言わないと言って言明するキケローの十八番)を示すものですね。
 「お前の経済的な破綻については言及せずにおこう」
当時の有力者は一般的に政治活動のために私財を投じる必要があったため、負債が莫大な額に及んでいたと認識しています。カティリーナもその一人なのでしょう。ご指摘の domestica turpitudo ですが、恐らく妻子殺害のことがそこでは思い浮かべられていると思います。


【 quās omnīs 】
omnis は quas に照応しているので女性複数対格になります。
 「完全なるそれ(=破綻)が」


【 proximīs Īdibus 】
お書きの通りです。要するに大の月の Idus が 15 日を指すという事です。前45年にユリウス暦に変わると、1, 3, 5, 7 ,9, 11 月が大の月になります。また 8 月 の Sexilis がアウグストゥスによって Augustus に変えられ大の月に格上げされると 1, 3, 5, 7, 8, 10, 12 月が大の月になります。
 訳語ですが、日本語の「中日(なかび)」には色んな意味があり必ずしも「月の中間の日」とは読まれないことを考えると、Idus の訳語とするのに私は少し抵抗を感じてしまいます。確かに13日とするとそれでいいのかと思う所はありますが、そうする他ないように思います。注を添えて「Idus のこと」などとしておくのがベターなのかもしれません。
 「来たる13日に」
この演説が8日なので、13日は5日後ということになります。


【 tibi impendēre sentiēs 】
pendēre はペンダントとの連想で「垂れさがる」と私は覚えましたが、これに接頭辞 in- を添えることで垂れさがる先、その対象が強調された表現になります。その対象が tibi で表現されており、顔の上に何か物が垂れさがって来ているようなイメージで捉えます。なので、impendere は「差し迫る」と訳せようかと思います。
 「(完全なる破滅が)お前に差し迫っていることをお前は知るであろう」


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